| 失はれる物語 乙一 (2006/06) 角川書店 この商品の詳細を見る |
何でこの人、知ってるんだろう。
"Calling You"の主人公に、面影を重ねずにはいられなかった。
人付き合いが苦手で、傷つきやすくて臆病で、今よりずっと不器用で、
人や世の中と上手くやっていくことが夢だった、あのころ。
ファンタジー小説にのめりこんで、現実よりも夢の方が大切だった。
大勢の人とを前にすると、テレビを見ているみたいに遠く感じた。
自分の発言が、その場を凍りつかせる。その時の、決まり悪い感じ。
じっとりとした汗と、言わなければよかった・・・という後悔。
私にも、架空の友達はいた。
この小説のように彼女と私が会話を交わしたことはなかったけれど、
彼女が私に与えた影響は計り知れない。
物怖じせず、世界や人とかかわり、人生を楽しめる。
自信満々で楽天的で、誰とでも上手くやっていける。
彼女は私の目標だった。
私は彼女みたいになりたかった。
彼女の人生を考えるのは楽しかった。
きっと彼女ならこうする。彼女なら、こう考える。
もっとも彼女の住む世界に、私は存在さえしなかったけれど。
大学入学と1人暮らしを契機に、私は変わった。
高校時代仲の良かった友達に、
「変わりすぎて、たまに混乱する。どっちが本当の桂だろうって。
あなたはもっとこう…閉鎖的で、内向的な人間だった」
と評されたこともある。
他人に言っても意味が伝わらないだろうし、自分でも不思議なのだが、
大学入学以来、私は少しずつ彼女に似てきた。
私が彼女に、彼女が私に成っていった。
もともと、彼女は私の一部なのだから変な表現なのだが、
たまに私は、彼女が自分の人生を乗っ取ったのではないかとさえ思う。
表面的な人格はさほど似ていないのだが、その芯の部分。
楽天的で、人と世界に対して肯定的でありながら、精神的には完全に自立したところは・・・高校時代以前、特に中学時代の自分には、全く見られなかった性質のはずだから。
女らしい服装に身を包み、甘えたり気づかいしたりする。
人に対して公平に接する。人の長所を愛する。愚痴と悪口は言わない。
相手に可愛がられたり、相手を笑わせたりして、心地よいと感じる。
オマエ誰だ?と、自分に突っ込む。
「私は――」と自分の中で「彼女」が答える気がする。
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GOTH、ZOOと乙一の短編に出てくる主人公は皆、
理性的・内向的・個人主義で乾いた感じがしていいなぁと思ったが、
この小説の主人公・・・特に「Calling you」と、「しあわせは子猫のかたち」は私にとって別格だ。
不器用で臆病で繊細で、自分の殻に閉じこもってしまった人達。
傷つくのが嫌で、目と耳を塞いで、夢を見続けようとする人達。
でも他人には見えない、自分にしか働かない正の力が、
内側から徐々に自分の世界を変えていく。
やがて厚い殻を突き破って、世界に光と温度をもたらす。
「Calling you」の結びの言葉は、今の自分が、かつての自分を思い出した時に浮かぶ言葉、ちょうどそのままだった。
