2006・10
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2006/10/31 (Tue) おじさん万歳。
あれだけ悲惨な週末を過ごしたくせに今日はやたらハイテンションで、
電話をかけた事務長から、
「桂さん、いつもに増して元気だね。何かいいことあったの?」
 と声をかけられた。

いやあの・・・いいことっていうか。
むしろ最悪?
なのに私、どうしてこんなに元気なんだ??

原因はやっぱり・・・昨日5時間以上サシで呑んだスクールの黄色さん。
あの数時間で、私のテンションは地獄から天国に昇華したのだと思う。

呑みに行く前、私は本当に落ち込んでいた。
憂鬱で偏頭痛がして、ベッドに寝そべって何もやる気がしなかった。

そんな時、完全なる第三者に励ましてもらえるとどれほど嬉しいか。

利害上下関係がない偶発的な呑みだからこそ、
天啓のような効果があるのかもしれない。

人生に絶望したときこそ、希望の明るさに心洗われるように。

****

思えば童話みたいな話である。

冬の路地で孤独と不安と無力感で打ちひしがれる女の子の前に、
突如現れた優しいサンタクロース。

いやあの。
「女の子」ってのも例えですよ。
小さな女の子になったような気分だった、という話。

「的確なアドバイスができなくてごめんなー。
 でも今、それを乗り越えることに意味はあると思うよ。
 本当に大変だと思うけど、がんばって」
「うん、ありがとう、おじちゃん。私がんばるよ」

ご馳走をおごってもらって、励ましてもらって、色々な話を聞いた。

夫婦関係の難しさの話。所詮は他人だけど、家族だからという距離。
心は離れていても、離れていないフリして一緒に居るというルール。

子供への愛。幼く新鮮な目で世界を追体験する喜び。
新しい出会いや知らない世界に対する飽くなき好奇心。

スクールでリーダーとして様々なイベントを企画して、
先生や生意気そうな若社長に慕われていること。

上司に頼られること。同僚と分かち合うこと。部下を育てること。

話を聞いていて感じるのは「この人、人間好きだなあ」ということ。
試しに「人間好き?」と聞いたら、案の定「大好き!」と返ってきた。

いいなあ、こういう暖かい人。

寒々とした実家の空気に冷え切った心に、じんわりと染み渡る。

どうしてあの家は、あんなに冷たいんだろう。
ポカポカした心で顧みる実家は、汚く暗く冷たい。

****

さて有休をとった代価として1人居残って残業していると、
お休みのはずの隣の部署の次長さんが入ってきた。

「あれ?今日お休みのはずじゃ?」
「あれ?桂さんまだ残ってるの?」

言葉が被る。
私は有休を取ったしわ寄せだと説明し、
次長さんは営業電話や上司がいない方が仕事がはかどるから、と答えた。

しばらくお互い黙々と仕事をしていたが、ふと思いついて声をかけた。
「あの・・・ちょっと次長さんにお尋ねしたいことがあるんですが」
「なに?」
 案件として上がっている土地と数字を見比べながら答える次長さん。
「あの・・土地の運営とか、管理とか、税金とかについて一通り学びたいと思うなら、どうやって勉強すればいいものでしょうか?」
 次長さんは顔を上げた。

事情は割愛して、状況を説明した。
今まで土地を管理していた人が、意識不明の重体でお鉢が自分に回ってくるかもしれないこと。
どこにどんな土地があるのか、どんな風に管理しているのか、
当人が話せない状態なので把握しようがないこと。

はじめ「建築士とか、不動産鑑定士かなぁ」と気のない返事をしていた次長の顔が、私の話を聞くうちに次第に引き締まっていった。

「その状況だと、相続税がやばいんじゃない?」
「相続税?」
「うん。資産一億以下ならさほど問題ないけど、土地をもし貸してるなら要注意だよ」

そういえば、20年前祖父が亡くなったとき、
相続税でずいぶん揉めたらしい、ということを思い出す。

「その後特に処分はしてないの?あー、そりゃ一億以上ありそうだね。
 あのね、もしそれで管理者が亡くなったら、
 10ヶ月以内に国税局へ申告しなきゃならないんだよ」

「10ヶ月以内?もし出来なかったらどうなるんですか?」

「脱税ってことで犯罪を犯したことになる」

「へっ!?」

その後次長さんは相続税についてかいつまんで話してくれた。
話してくれたが。
聞いているうちに、自分の顔が青ざめていくのがわかった。

「ってちょっと待ってください。
 それって、めちゃくちゃ面倒かつ大変な話じゃないですか?」
「うん。だから、まだ生きているうちに対策をはじめたほうがいいよ」

思わず頭を抱える。
「対策…っても、管理者は今意識不明の重体で、
 回復しても言語能力に障害が残るかもしれないんですよ。
 言語能力ってのはつまり・・・抽象的な思考ができなくなるってことなので、
 税率やらリスク管理やら出来なくなりそうなんですけど」

「あー お父さんそんな悪いの?
 君が、法定代理人になるって方法もあるけどね」
「法定代理人?」
「うん。お父さんの判断力が戻らなければ、家裁に申したてて、
 君が土地の管理だとか処分だとかできるよう権利を譲り受けるんだ」
「・・・どっちにせよ面倒な話じゃありません?」
「一番楽なのは、相続権を放棄することだよ。そうすれば何も考えなくていい」

眉間に皺を寄せて、私は次長さんを見やった。
「どうやって、そのあたりのこと勉強すればいいんですか?」
「まずは相続税ってタイトルの細い新書でも読んでみれば?
 それだけでずいぶん違うと思うけど」

早速帰り道本を買って、通勤電車で読んだ。

・・・・目から鱗がボロボロですよ。

今まで不可解だった家族の会話が、とたん意味を持つようになる。
つまり、節税対策だったのかと。
そしてどれ程、父が死ねば自分が危機的な状況に陥るか理解する。

ひとまずこれが、今私がやるべきことだと、確信する。

****

父が倒れて一週間。
なんだかMBAの夢は一体どこへ?ってな状況だが。

土地も相続も親も、生まれたときから私が背負っていた問題だから。
遅かれ早かれ、直面する運命にあった問題だから。

清算してから飛び出したって遅くない。
そう信じて、取り組もうと思う。

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