半身不随の父親が名古屋から東京の自宅にやって来た。
父親は現在、離婚問題がこじれて裁判沙汰手前。
理性ではこれ以上引き止めても仕方ないと分かっているが、
未練と恨みがない交ぜになって、意地になってみる模様。
そんな時、一体うちに何しに来る気だあの人―――!?
右の手足が動かないから、階段の上り下りは無理なハズ。
人ごみに押されひっくり返って大怪我したら私の責任か!?
体張って、帰って来いと言ってるつもりか!?
とか、かなり戦々恐々で迎えたのだが・・・。
私の予想は、全く想定外の形で裏切られることになった。
****
今思えば前兆は前日のメールからあった。
「明日のスケジュールを教えてくれる?家に来るの?」
とメール確認すると、
「はい。新横浜から○○駅に乗り換えて、○○線に乗って○○に行き、
○○で降りてから、貴方の家に行きます」
と、やたら詳細かつ遠回りな経路が返ってきたのだ。
けど、その時はさほど不審に思わなかった。
なぜなら父親は筋金入りの「鉄っちゃん」だから。
鉄っちゃんとは、いわゆる鉄道オタク。
一言に鉄道オタクと言っても色々な宗派(?)があるようだが、父は重度の、
乗り鉄(=電車に乗りたい)
撮り鉄(=晴天の日に最高のタイミングで写真を撮りたい)
で、どれほど激務が重なっても晴れた休日は1人でカメラと時刻表を携え全国各地を移動し、
子供の頃から鉄道仲間と写真上映会などを催していたのである。
きっと、滅多に遠出できないから、ついでに珍しい路線に乗ってみたいんだろう。
今思えば私は理解していなかったのだ。
趣味人と、マニアは根本的に違うということを――。
****
日帰りで帰るはずの父親は、大きなバッグをたすきがけにして現れた。
左手に杖を携える姿は、記憶よりも一回り小さくなっている。
「お疲れ様。じゃあ○○線にのる?」
「はい」
麻痺の残る引きつった表情でうなずき、ホームへ向かう。
その足取りは思いのほか軽やか。
動かない右足を引きずりながらもエスカレーターをクリアし、電車に乗り込んだ。
すげえ、一年前は家でもしょっちゅう転びそうになってたのに。
感心して眺める私に構わず、父親は座席に着くとテキパキと手帳を取り出した。
そして車内をキョロキョロと見渡し、あわてた様子で何かを書き込んでいる。
???
怪訝に思い、隣から覗き込んだ。
バス停A 0:00
名古屋駅 0:00 のぞみ×号 0000
新横浜 0:00 0000
―――!!
コイツ、左手しか使えないくせに――!
出発駅と乗車&降車時間、電車番号をキッチリ記録してやがる・・・。
そして予感を持って開いたままのバッグを覗いてみると。
案の定、ニコンのデジカメ一眼レフと、電話帳のごとき時刻表が入っていた・・・。
****
さて、その後の父親といえば・・・
・地下鉄が地上に出る唯一の駅を把握しており、降りてホームで電車の撮影。
・電車が揺れようが席が空いてようが、最前列なら立って前方を眺めてます。
・どんな混雑だろうが、手すりにつかまって階段の上り下りをするハメになろうが、
希望の列車に乗るためなら一心不乱にやり遂げて不満も一切もらしません。
・帰り道はわざわざ東京に出て、新しく開通した副都心線に乗りました。
・その時は記念に切符を買って持ち帰っていた。
心配していた離婚話も、ホームでの撮影の後、話題には出たのだが――。
離婚を許せぬ葛藤を語っている最中、珍しい電車が隣を走ると、
「あっ!!」
と目がそっちを向き、悔しそうにため息。そして一言、
「カメラしまうんじゃなかった・・・」
いやあの、お父様、さっきまでの離婚話は?
極めつけは、その後の会話。
「まあ、奥様の気持ちもわかるけどね。
あったかい家で育って、父さんには尽くしたつもりだろうからさ。
当然あるはずのお返しがなくて、疲れ果てちゃったんじゃん?
ほら、うちって人のために自分を犠牲にするっていう文化がないし」
という言葉に、
「確かに俺は、あいつより鉄道が好きだからなあ」
という耳を疑うような言葉が返ってきたこと。
・・・・・。
そういえばアメリカでの写真も、家族写真より鉄道写真のが明らかに多かったなあ。
私3歳くらいの頃、時刻表に粗相して嘔吐するほど怒られたこともあるし・・・。
なんというか、お父様はもう、結婚とか人間関係とかやめて、
趣味だけに万進したほうがいいと思うんだけど・・・。
本当に清清しいほど、人間味のない人だなあ。
****
そんなこんなで自宅に遊びに来た後、副都心線に乗り、
幸い一度も転んだりはせず帰路へ。
見送った後、帰りの電車で携帯にメールが来た。
「晴れてて楽しかった。これで思い残すことはない。
あとはつくばエクスプレスか」
ま た 撮 り に 来 る 気 で す か
いやまあ、私も面白かったけどな、シュールすぎて。
離婚問題で自暴自棄になってたらとか、泣きつかれたらどうしようとか不安だったけど、
そういうウェットな部分の欠落、情や他人に全く左右されない強固な自我、
going my wayっぷりが今回の離婚問題の発端な気がしてきた・・・。
私も気持ちの切り替えの早さやポジティブさ、趣味人っぷりはよく人に指摘されるけど、
それらは長所短所を越えた、変えようもないその人の性質。
奥様のように人を案じて体調を崩したり、家族で一致団結するなんてできないし、
無理に合わせて一緒にいる必要もないんじゃないか。
早く現実を認めて、魂に合った生き方を見つけて欲しいなあとしみじみ思った。
父親は現在、離婚問題がこじれて裁判沙汰手前。
理性ではこれ以上引き止めても仕方ないと分かっているが、
未練と恨みがない交ぜになって、意地になってみる模様。
そんな時、一体うちに何しに来る気だあの人―――!?
右の手足が動かないから、階段の上り下りは無理なハズ。
人ごみに押されひっくり返って大怪我したら私の責任か!?
体張って、帰って来いと言ってるつもりか!?
とか、かなり戦々恐々で迎えたのだが・・・。
私の予想は、全く想定外の形で裏切られることになった。
****
今思えば前兆は前日のメールからあった。
「明日のスケジュールを教えてくれる?家に来るの?」
とメール確認すると、
「はい。新横浜から○○駅に乗り換えて、○○線に乗って○○に行き、
○○で降りてから、貴方の家に行きます」
と、やたら詳細かつ遠回りな経路が返ってきたのだ。
けど、その時はさほど不審に思わなかった。
なぜなら父親は筋金入りの「鉄っちゃん」だから。
鉄っちゃんとは、いわゆる鉄道オタク。
一言に鉄道オタクと言っても色々な宗派(?)があるようだが、父は重度の、
乗り鉄(=電車に乗りたい)
撮り鉄(=晴天の日に最高のタイミングで写真を撮りたい)
で、どれほど激務が重なっても晴れた休日は1人でカメラと時刻表を携え全国各地を移動し、
子供の頃から鉄道仲間と写真上映会などを催していたのである。
きっと、滅多に遠出できないから、ついでに珍しい路線に乗ってみたいんだろう。
今思えば私は理解していなかったのだ。
趣味人と、マニアは根本的に違うということを――。
****
日帰りで帰るはずの父親は、大きなバッグをたすきがけにして現れた。
左手に杖を携える姿は、記憶よりも一回り小さくなっている。
「お疲れ様。じゃあ○○線にのる?」
「はい」
麻痺の残る引きつった表情でうなずき、ホームへ向かう。
その足取りは思いのほか軽やか。
動かない右足を引きずりながらもエスカレーターをクリアし、電車に乗り込んだ。
すげえ、一年前は家でもしょっちゅう転びそうになってたのに。
感心して眺める私に構わず、父親は座席に着くとテキパキと手帳を取り出した。
そして車内をキョロキョロと見渡し、あわてた様子で何かを書き込んでいる。
???
怪訝に思い、隣から覗き込んだ。
バス停A 0:00
名古屋駅 0:00 のぞみ×号 0000
新横浜 0:00 0000
―――!!
コイツ、左手しか使えないくせに――!
出発駅と乗車&降車時間、電車番号をキッチリ記録してやがる・・・。
そして予感を持って開いたままのバッグを覗いてみると。
案の定、ニコンのデジカメ一眼レフと、電話帳のごとき時刻表が入っていた・・・。
****
さて、その後の父親といえば・・・
・地下鉄が地上に出る唯一の駅を把握しており、降りてホームで電車の撮影。
・電車が揺れようが席が空いてようが、最前列なら立って前方を眺めてます。
・どんな混雑だろうが、手すりにつかまって階段の上り下りをするハメになろうが、
希望の列車に乗るためなら一心不乱にやり遂げて不満も一切もらしません。
・帰り道はわざわざ東京に出て、新しく開通した副都心線に乗りました。
・その時は記念に切符を買って持ち帰っていた。
心配していた離婚話も、ホームでの撮影の後、話題には出たのだが――。
離婚を許せぬ葛藤を語っている最中、珍しい電車が隣を走ると、
「あっ!!」
と目がそっちを向き、悔しそうにため息。そして一言、
「カメラしまうんじゃなかった・・・」
いやあの、お父様、さっきまでの離婚話は?
極めつけは、その後の会話。
「まあ、奥様の気持ちもわかるけどね。
あったかい家で育って、父さんには尽くしたつもりだろうからさ。
当然あるはずのお返しがなくて、疲れ果てちゃったんじゃん?
ほら、うちって人のために自分を犠牲にするっていう文化がないし」
という言葉に、
「確かに俺は、あいつより鉄道が好きだからなあ」
という耳を疑うような言葉が返ってきたこと。
・・・・・。
そういえばアメリカでの写真も、家族写真より鉄道写真のが明らかに多かったなあ。
私3歳くらいの頃、時刻表に粗相して嘔吐するほど怒られたこともあるし・・・。
なんというか、お父様はもう、結婚とか人間関係とかやめて、
趣味だけに万進したほうがいいと思うんだけど・・・。
本当に清清しいほど、人間味のない人だなあ。
****
そんなこんなで自宅に遊びに来た後、副都心線に乗り、
幸い一度も転んだりはせず帰路へ。
見送った後、帰りの電車で携帯にメールが来た。
「晴れてて楽しかった。これで思い残すことはない。
あとはつくばエクスプレスか」
ま た 撮 り に 来 る 気 で す か
いやまあ、私も面白かったけどな、シュールすぎて。
離婚問題で自暴自棄になってたらとか、泣きつかれたらどうしようとか不安だったけど、
そういうウェットな部分の欠落、情や他人に全く左右されない強固な自我、
going my wayっぷりが今回の離婚問題の発端な気がしてきた・・・。
私も気持ちの切り替えの早さやポジティブさ、趣味人っぷりはよく人に指摘されるけど、
それらは長所短所を越えた、変えようもないその人の性質。
奥様のように人を案じて体調を崩したり、家族で一致団結するなんてできないし、
無理に合わせて一緒にいる必要もないんじゃないか。
早く現実を認めて、魂に合った生き方を見つけて欲しいなあとしみじみ思った。
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