仕事の後、派遣さんと会社費用もちのコンサートに行った。
費用会社もちだけあって、顔見知りがチラホラ。
部下と来たり、彼女と来たり、親御さんと来たりしている。
コンサートの後軽く飲みたいなーと思ったのだが、
親御さんや彼女と来ている人は誘いにくく、
頼みの綱の先輩は疲労が祟っていたのか帰ってしまった。
「でも、お腹すきません?食べて帰りません?」
派遣さんに誘われて、変わり映えしないけどまあいいか、と入った飲み屋さん。
思いのほか、有意義な飲みになった。
****
というか今日気付いたのだが、派遣さんってば聞き上手なのである。
どんな話でもひとまず聞いて受け入れるし、口は堅そうだし、
何より人を馬鹿にしたり、言葉を深読みしたり、必要以上に他人に興味をもたないのがいい。
おかげで考えながら、本音を話せる。
酒を呑むと、私は普段よりおしゃべりになる。
色々悩む時期だけに、話して初めて、
「そんな風に考えているんだ」
と気付くことが多かった。
****
酒を呑むと、私は問答無用にハッピーになる。
目を細めて慈しむようにワイングラスを傾けていると、
「お酒のどこが、そんなに好きなんですか?」
と飲めない派遣さんに尋ねられた。
「見た目も味もにおいも全て好きだけど・・・酔うのが、好きだね。特に。
酔っ払うとさ、頭の動きが鈍くなって、輪郭が薄まる感じがして・・・、
感覚が『今』に戻るんだよね」
「今?」
なんと言えばいいのか。言葉を探す。
「うーんと・・・これは、私の病気みたいなものなんだけどさ。
私って普段、やたら未来のことを考えているのね。
仕事中ではもちろん一年先、三年先、十年先を考えて判断するし、
日常でも同じ感覚で、今でない未来を見て行動することが多いの。
未来の為に今を犠牲にすることは、厭わないほうだと思う。
でも先を考えて行動するのは悪いことではないけれど、
私みたいに行き過ぎると『今』が楽しめないのよね。
頭の中に作ったフィクションで、半分生きているというか」
全く違うタイプの派遣さんは、不思議そうに首をかしげている。
「うーんと、例えば素敵な人に会ったとしても、その人との関係とか、
今後の付合いとか、一般常識が気になって、親密になれない。
美味しいものを食べてる時も、どっかそのためのカロリーとか、
栄養バランスとか、食べる時間が気になって、集中できない。
つまり、今そこにはない可能性とか危険性が気になって、
今自分が何をしてるかに集中できないの。そういう病気」
「病気って・・・」
笑う派遣さんに、私は苦笑した。
「でも人生は、先でも後ろでもない、今ここにあるわけでしょう。
お酒を呑むと、頭は鈍くなるけど感覚が研ぎ澄まされるから、
今ここにいる自分ってやつの感覚が戻るのよね。
私は酔うのが大好き。
裸になって、人や世界と向き合ってる感じがするから」
また、これまでやった仕事の話をしている中で、
「桂さんは今の仕事、やりがいありますか?」
と、派遣さんに尋ねられた。
「あるよ。今の仕事は、会社作りに直結してるからね。
例えば契約書は、ある意味で会社の基幹じゃない?
それを自分の判断に基づいて作れるのはいいよ。
私の判断が、会社になるってことだから。すごい勉強になる」
にっこり笑って即答する。
でも首をかしげる派遣さんを見ているうちに、自然と言葉は続いた。
「でも、不満はある。
・・・給料とか?・・・いやちがう。給料は不満じゃない」
自問自答。派遣さんは、ただ聞いている。
「今の仕事は得意なことで、楽だけど、これまでの仕事にくらべて、
自分の為になっているのか自信がないんだな。つまり」
「これまでの仕事?」
「例えば介護とか」
訝しげに瞬きする派遣さんに、言葉を重ねた。
「私はものすごく介護に向いていないから、
働いている時はとにかく大変だったし、周りに迷惑もかけた。
でも介護の仕事は私を変えて、成長させたんだよ。
例えば、システム管理や契約書の作成は大変だけど、
結局自分にとって得意分野だから、まあ上手くできるんだよね。
でも、例えば介護フロアだとレクリエーションのために童謡をアカベラで歌わなきゃいけなかったりするわけ。
今の仕事とは大変さの次元が違うのよ。
苦手で、やりたくないけど、がんばらなきゃいけない。
そういう努力って、私これまでずっとしたことなかったのよ。
苦手なことには関わらず、得意なことだけで勝負してきた。
でも仕事だと、やりたくないは通用しないからさ。
自分が変わらなきゃならないじゃない。いやがおうにも。
大変だったけど、謙虚さと視野の広さが備わった気がする。
そういうのって、後から思い出すと悪くないんだよね」
「今の仕事では学ぶことがないってことですか?」
問いかけられた言葉を吟味してみる。
「ううん。学ぶことはあるよ。
例えば実務的な意味では、日々進歩していると思う。
ただなんというのかな。
成長と、進歩は違うんだよね。
進歩は上に積み上げる感じ。成長は横に広がる感じ。
進歩すれば物事を深く見ることはできるけどさ、
成長しないと隣にあるものの価値を知ることはできないんだよ。
どっちも大切だとは思うけど、成長したときのほうが感動するな。
これまで知らなかった世界の有様や、自分自身の可能性に」
そういえば人との出会いも同じことだ。
これまで付き合いのなかった世代や人種と出会うのは、
友達と旧交を温めるのとは決定的に違う。
また、趣味の話になったときのこと。
先日の旅行について、水を向けられた。
「とにかく考えさせられる旅行だったよ。
半分は友達に会って、半分は志望してる大学院を見に行ったんだ。
友達は今翻訳を志しながらNYでバイトしていて、ピアニストの彼氏さんと近々結婚する予定なのね。
お金もないし、将来の展望もないし、ナイナイ尽くしなんだけどさ。
ものすっごく、幸せそうだったんだよね。
逆に、大学院でMBA取得を目指す人ってのは、上や上やのレースの真っ只中にいる人な訳じゃん。
勉強して、よりよい給料のため就職して、成功を目指す。
その対比が、ものすごかった。
こっち側だけでいいの?って考えさせられたよ。
人がハッピーになるために必要不可欠なものって、
きっとそんなに多くないんだよね。
不安だから、多くの人は余計に求めてしまうだけで」
「桂さんは、それでもMBAを目指すんですか?」
難しい質問だ。私は首をかしげた。
「うーん・・・今は迷っているけど、目的の為にそれが必要だという結論に行き着いたら目指すだろうね。MBAは目的ではなく、手段だからさ。
結局、私が求めるものって自分自身の変化と、
それをもたらす出会いや経験に他ならないと思うのね。
いろんな国を巡りたい。いろんな人に会いたい。
人や体験から影響を受けて、どんどん成長したい。変わりたい。
そのためには、知識や技術を磨いて器を大きくしなきゃだし、
人に認められるための言葉やライセンスの問題もあるじゃん。
MBAがそのための扉を開く鍵となりうるなら、欲しいよね。やっぱり」
サシで2時間飲む中、様々な話をした。
実は派遣さんのお父様が亡くなっていて、
つい最近肉親を亡くしていることもはじめて知った。
習い事と出会いのこと、将来の夢、友達の幅、趣味・・・。
どんな人にも魂があって、その人なりの人生がある。
それを引き出すための技術・・・「聴く」力を、
思いのほか派遣さんが兼ね備えていることに何より驚いた。
答えるほうが楽なときと、質問するほうが楽なときがあるけど。
正直言って、最近1人で考えこむことが多いので、かなり救われた。
費用会社もちだけあって、顔見知りがチラホラ。
部下と来たり、彼女と来たり、親御さんと来たりしている。
コンサートの後軽く飲みたいなーと思ったのだが、
親御さんや彼女と来ている人は誘いにくく、
頼みの綱の先輩は疲労が祟っていたのか帰ってしまった。
「でも、お腹すきません?食べて帰りません?」
派遣さんに誘われて、変わり映えしないけどまあいいか、と入った飲み屋さん。
思いのほか、有意義な飲みになった。
****
というか今日気付いたのだが、派遣さんってば聞き上手なのである。
どんな話でもひとまず聞いて受け入れるし、口は堅そうだし、
何より人を馬鹿にしたり、言葉を深読みしたり、必要以上に他人に興味をもたないのがいい。
おかげで考えながら、本音を話せる。
酒を呑むと、私は普段よりおしゃべりになる。
色々悩む時期だけに、話して初めて、
「そんな風に考えているんだ」
と気付くことが多かった。
****
酒を呑むと、私は問答無用にハッピーになる。
目を細めて慈しむようにワイングラスを傾けていると、
「お酒のどこが、そんなに好きなんですか?」
と飲めない派遣さんに尋ねられた。
「見た目も味もにおいも全て好きだけど・・・酔うのが、好きだね。特に。
酔っ払うとさ、頭の動きが鈍くなって、輪郭が薄まる感じがして・・・、
感覚が『今』に戻るんだよね」
「今?」
なんと言えばいいのか。言葉を探す。
「うーんと・・・これは、私の病気みたいなものなんだけどさ。
私って普段、やたら未来のことを考えているのね。
仕事中ではもちろん一年先、三年先、十年先を考えて判断するし、
日常でも同じ感覚で、今でない未来を見て行動することが多いの。
未来の為に今を犠牲にすることは、厭わないほうだと思う。
でも先を考えて行動するのは悪いことではないけれど、
私みたいに行き過ぎると『今』が楽しめないのよね。
頭の中に作ったフィクションで、半分生きているというか」
全く違うタイプの派遣さんは、不思議そうに首をかしげている。
「うーんと、例えば素敵な人に会ったとしても、その人との関係とか、
今後の付合いとか、一般常識が気になって、親密になれない。
美味しいものを食べてる時も、どっかそのためのカロリーとか、
栄養バランスとか、食べる時間が気になって、集中できない。
つまり、今そこにはない可能性とか危険性が気になって、
今自分が何をしてるかに集中できないの。そういう病気」
「病気って・・・」
笑う派遣さんに、私は苦笑した。
「でも人生は、先でも後ろでもない、今ここにあるわけでしょう。
お酒を呑むと、頭は鈍くなるけど感覚が研ぎ澄まされるから、
今ここにいる自分ってやつの感覚が戻るのよね。
私は酔うのが大好き。
裸になって、人や世界と向き合ってる感じがするから」
また、これまでやった仕事の話をしている中で、
「桂さんは今の仕事、やりがいありますか?」
と、派遣さんに尋ねられた。
「あるよ。今の仕事は、会社作りに直結してるからね。
例えば契約書は、ある意味で会社の基幹じゃない?
それを自分の判断に基づいて作れるのはいいよ。
私の判断が、会社になるってことだから。すごい勉強になる」
にっこり笑って即答する。
でも首をかしげる派遣さんを見ているうちに、自然と言葉は続いた。
「でも、不満はある。
・・・給料とか?・・・いやちがう。給料は不満じゃない」
自問自答。派遣さんは、ただ聞いている。
「今の仕事は得意なことで、楽だけど、これまでの仕事にくらべて、
自分の為になっているのか自信がないんだな。つまり」
「これまでの仕事?」
「例えば介護とか」
訝しげに瞬きする派遣さんに、言葉を重ねた。
「私はものすごく介護に向いていないから、
働いている時はとにかく大変だったし、周りに迷惑もかけた。
でも介護の仕事は私を変えて、成長させたんだよ。
例えば、システム管理や契約書の作成は大変だけど、
結局自分にとって得意分野だから、まあ上手くできるんだよね。
でも、例えば介護フロアだとレクリエーションのために童謡をアカベラで歌わなきゃいけなかったりするわけ。
今の仕事とは大変さの次元が違うのよ。
苦手で、やりたくないけど、がんばらなきゃいけない。
そういう努力って、私これまでずっとしたことなかったのよ。
苦手なことには関わらず、得意なことだけで勝負してきた。
でも仕事だと、やりたくないは通用しないからさ。
自分が変わらなきゃならないじゃない。いやがおうにも。
大変だったけど、謙虚さと視野の広さが備わった気がする。
そういうのって、後から思い出すと悪くないんだよね」
「今の仕事では学ぶことがないってことですか?」
問いかけられた言葉を吟味してみる。
「ううん。学ぶことはあるよ。
例えば実務的な意味では、日々進歩していると思う。
ただなんというのかな。
成長と、進歩は違うんだよね。
進歩は上に積み上げる感じ。成長は横に広がる感じ。
進歩すれば物事を深く見ることはできるけどさ、
成長しないと隣にあるものの価値を知ることはできないんだよ。
どっちも大切だとは思うけど、成長したときのほうが感動するな。
これまで知らなかった世界の有様や、自分自身の可能性に」
そういえば人との出会いも同じことだ。
これまで付き合いのなかった世代や人種と出会うのは、
友達と旧交を温めるのとは決定的に違う。
また、趣味の話になったときのこと。
先日の旅行について、水を向けられた。
「とにかく考えさせられる旅行だったよ。
半分は友達に会って、半分は志望してる大学院を見に行ったんだ。
友達は今翻訳を志しながらNYでバイトしていて、ピアニストの彼氏さんと近々結婚する予定なのね。
お金もないし、将来の展望もないし、ナイナイ尽くしなんだけどさ。
ものすっごく、幸せそうだったんだよね。
逆に、大学院でMBA取得を目指す人ってのは、上や上やのレースの真っ只中にいる人な訳じゃん。
勉強して、よりよい給料のため就職して、成功を目指す。
その対比が、ものすごかった。
こっち側だけでいいの?って考えさせられたよ。
人がハッピーになるために必要不可欠なものって、
きっとそんなに多くないんだよね。
不安だから、多くの人は余計に求めてしまうだけで」
「桂さんは、それでもMBAを目指すんですか?」
難しい質問だ。私は首をかしげた。
「うーん・・・今は迷っているけど、目的の為にそれが必要だという結論に行き着いたら目指すだろうね。MBAは目的ではなく、手段だからさ。
結局、私が求めるものって自分自身の変化と、
それをもたらす出会いや経験に他ならないと思うのね。
いろんな国を巡りたい。いろんな人に会いたい。
人や体験から影響を受けて、どんどん成長したい。変わりたい。
そのためには、知識や技術を磨いて器を大きくしなきゃだし、
人に認められるための言葉やライセンスの問題もあるじゃん。
MBAがそのための扉を開く鍵となりうるなら、欲しいよね。やっぱり」
サシで2時間飲む中、様々な話をした。
実は派遣さんのお父様が亡くなっていて、
つい最近肉親を亡くしていることもはじめて知った。
習い事と出会いのこと、将来の夢、友達の幅、趣味・・・。
どんな人にも魂があって、その人なりの人生がある。
それを引き出すための技術・・・「聴く」力を、
思いのほか派遣さんが兼ね備えていることに何より驚いた。
答えるほうが楽なときと、質問するほうが楽なときがあるけど。
正直言って、最近1人で考えこむことが多いので、かなり救われた。
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